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【シンガポールと日本】混ざり合った文化が「うちの食卓」をつくる。

「みんなの食卓でありたい」を企業メッセージとして掲げる松屋フーズが、「みんなの食卓」にお邪魔する連載、第3回。今回訪問したのは、国際結婚をしている中井浩平さん、ディアナさんのご自宅。ディアナさんの出身地は、シンガポール。日本に移り住んで、まだ5年ほどだそう。そんな中井家では、どんな「食卓のカタチ」が見られるのだろうか。

(感染症拡大防止に細心の注意を払い、取材を行いました)

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日本の食材でシンガポール料理を作る

都内の住宅街に、中井浩平さんとパートナーであるディアナさんの住まいがある。取材陣を真っ先に出迎えてくれたのは、そこで暮らすふたりの女の子たち。そう、中井さんご夫婦が愛してやまない、ふたりの娘さんだ。

子どもたちがはしゃぐ声に包まれ、リビングに足を踏み入れると、すでに美味しそうなにおいが漂っていた。キッチンではディアナさんが忙しそうに手を動かしながらも、その日の献立について教えてくれる。

ディアナさん「今日のランチは“ラクサ”にしました。私の生まれ故郷、シンガポールの名物で、ココナッツをベースにしたちょっと辛い麺料理なんです」

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ディアナさんの説明によると、本場のラクサには米粉を使った麺を入れるという。

ディアナさん「でも、日本では食材がなかなか手に入らないので、今日はうどんを入れてみたんです。元々、シンガポールではさまざまな国の食文化をミックスして取り入れる習慣があるので、トライすることには慣れていて」

そうして出来上がったラクサがテーブルに並べられると、浩平さんと娘さんたちが席につく。「いただきます!」。4人で手を合わせ、賑やかな食事がスタートした。

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異国の地で暮らすことが楽しみだった

浩平さんとディアナさんは結婚して6年半ほど。その出会いは、浩平さんが仕事でシンガポールに赴任していたときのことだった。

浩平さん「父が仕事の都合でしょっちゅう海外に出張していたんです。その姿を見て育ったので、ぼくも自然と『将来はグローバルに働きたい』と思うようになりました。だから海外赴任も迷わず希望して。そこでディアナと出会ったんです。きっかけは共通の知人からの紹介ですね」

ディアナさんをひと目見た浩平さんは、積極的にアプローチし、デートの約束をこぎつけた。けれど、当時のディアナさんはというと……。

ディアナさん「わたしは友達になりたかっただけなんです(笑)」

その答えに、思わず苦笑いを浮かべる浩平さん。

ディアナさん「でも、コウちゃんはとっても真面目な人で、それが好印象でした。それまでも外国人とお付き合いすることはありましたけど、誰よりも真面目で一緒にいて安心感がありました。ただ、愛情表現は足りないですね。それはカルチャーの違いなので仕方ないとも思いつつ」

浩平さん「それは……、なかなかできないです(笑)」

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シンガポールの地で、ふたりはデートのたびに日本食レストランで食事をしたという。

ディアナさん「シンガポール料理はスパイスが効いた刺激の強いものが多いので、薄味で出汁の味が感じられる日本食は新鮮だったんです」

浩平さん「逆にぼくはシンガポール料理が大好きでしたけどね。本当に美味しいものがいっぱいあるんです」

美味しいものを食べ、少しずつ愛情を深めていったふたり。やがて、その目線の先に「結婚」が見えてきたのはとても自然なことだった。

ディアナさん「とにかく安心感があったので、一緒に家庭を作る未来が見えました」

浩平さん「プロポーズしたのは、出会ってから2年が経った頃。いつ日本に帰ることになるかわからなかったですし、結婚したいなと思いました」

ディアナさん「プロポーズはうれしかった。ただ、その前から『わたしたち、結婚すべきじゃない?』ってサインは出していたんですよ」

浩平さん「でも、その頃はあまり英語力がなかったので、ディアナからのサインに気づけなくて(笑)」

当時を思い出したのか、顔を見合わせながら微笑むふたり。そこには、国境を越えたたしかな愛情がある。

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ただし、やがては帰国することが決まっている浩平さんと結婚するということは、ディアナさんにとって「異国の地で生活する」ことになる、ということだ。そこに不安はなかったのだろうか。

ディアナさん「不安はまったくありませんでした。むしろ楽しみだったくらい。シンガポールにいた頃、コウちゃん以外にも日本人の友達がいて、みんなやさしかった。だから、日本に対するイメージもすごくよかったんです」

そうして結婚したふたりは、日本での新生活をスタートさせたのだ。

子育てに対する価値観の違い

日本での暮らしにワクワクしていたと話すディアナさん。けれど、思い描いていた理想と現実は異なるもの。

ディアナさん「日本のビジネスマンは飲み会がとても多いですよね? コウちゃんもそうで、しょっちゅう飲み会に行ってしまう。その頃、まだ娘が生まれたばかりだったので、正直不安になる瞬間は多かったんです」

浩平さん「日本に来たばかりの頃は喧嘩も多かったよね」

ディアナ「そう。不安で仕方なかったから」

知り合いがおらず、言葉も文化もわからないことだらけの地で、母として生きなければいけない。その頃のディアナさんはとても孤独で、プレッシャーに押し潰されそうになっただろう。けれど、そんなディアナさんを救ってくれたのは、そんな地に住む外国人――つまり日本人だった。

ディアナさん「日本に来てびっくりしたのは、近所の人たちがとにかくやさしくしてくれることです。しょっちゅうおうちに招待してくれますし、娘の面倒を見てくれることもあって。子育ての大変さを知っている人たちばかりなので、苦労しているわたしを助けてくれるんです」

周囲の人たちのサポートもあり、ディアナさんは少しずつ日本に馴染んでいった。お話を伺っていると、「つらかったこと」よりも「うれしかったこと」「楽しかったこと」がどんどん出てくる。それはもしかすると、常にポジティブなことに目を向けようとするディアナさんの人柄も関係しているのかもしれない。

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ただし、日本で生活することに慣れると、今度は夫婦間での価値観の違いが浮き彫りになってきたという。

浩平さん「子育てに対する考え方が違うんです。シンガポールは日本以上に受験戦争が厳しくて、小学生の頃から受験を意識させられてしまう。それに失敗したら、もういい大学には行けなくなってしまうくらいで」

ディアナさん「子どもの受験日には、親が仕事を休めるんです。それくらい受験に対する意識が高い国なんですよ」

浩平さん「ディアナにもそれが浸透していて、娘たちに勉強させたいという気持ちが強いんです。でも、ぼくは神戸の田舎育ちなので、子どもにはリラックスしてのびのび育ってもらいたい。勉強だけじゃなく、スポーツや遊びも経験してもらいたいですし」

子どもの将来を思うからこそ、意見が衝突する。それは当然のことだ。けれど、日本とシンガポールの文化を比較し、ディアナさんには気づきがあった。

ディアナさん「ただ、いまでは日本の教育システムの方がいいかもしれない、と思うようになりました。コウちゃんが言うように、勉強以外のこともできるようになってもらいたいですから」

それぞれのカルチャーをぶつけ合いながら、浩平さんとディアナさんは夫婦として一歩ずつ成長しているのだ。

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食事を通じで子どもたちに教えたいこと

美味しそうにラクサを食べる浩平さんに、「食文化の違いによるすれ違いはなかったんですか?」と訊いてみた。すると、意外なことに浩平さんが首を振る。

浩平さん「食べ物のことで喧嘩したことはないんです。ディアナは日本食が好きですし、ぼくもなんでも食べられるので。作ってくれるものは全部美味しいですしね」

ディアナさん「うれしい! ありがとう、コウちゃん」

浩平さん「ただ、食べられないものもあるよね?」

ディアナさん「あ~、ラーメンと納豆はどうしても食べられません……。娘たちは喜んで食べてますけど」

中井家の食卓には日本食が並ぶときもあれば、この日のようにシンガポール料理が登場することもある。しかも、そのシンガポール料理は、日本の食材を使ってアレンジしたもの。テーブルの上で、ふたつの国の食文化が混じり合い、「中井家の味」になっているのだ。

そんな食事を通して、浩平さんとディアナさんは娘さんたちに大切なことを教えているという。

ディアナさん「これは日本でも同じだと思いますけど、シンガポールでは子どもの成長過程において食の教育を重要視しているんです。ちゃんと座って食べる。残さずに食べる。それに加えて、食材一つひとつがとても大切なものだということも。たとえば、スーパーに生産者の顔写真付きの野菜が売っていたら、『この野菜は彼らが作っているの。だから感謝して、ちゃんと食べようね』と教えているんです」

浩平さん「ちゃんと教育してくれていて、ディアナには頭が上がりません」

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みんなで食卓を囲む時間が大好き

取材中もディアナさんは、娘さんたちがちゃんとご飯を食べているのか気を配る。浩平さんも積極的に話しかけ、時折笑い声が上がる。なんとも微笑ましい光景だ。

それだけで、浩平さんとディアナさんが食卓を大切にしていることが伝わってくるが、ふたりにとって、家族で囲む食卓はどんな「意味」を持つのだろう。

ディアナさん「どんなに忙しくても、食卓を囲んでいればいろいろ話ができますよね。それは本当に重要な時間だと思います。コウちゃんが仕事に行っているときでも、3人で紅茶を飲みながらお喋りするんですけど、そういう何気ない時間がとても好きです

浩平さん「ぼくもディアナと一緒で、みんなでご飯を食べながら過ごす時間が大好きですね

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ディアナさん「コウちゃんの実家に遊びに行ったとき、両親、きょうだい、おじいちゃん、おばあちゃんが集まって、みんなで食事していたんです。それを見たとき、日本人にとっても食卓ってとても大切なものなんだと感じました。わたしもその場に入れてもらうのが楽しくて

浩平さん「神戸の実家で、みんなとスイーツを食べる。ディアナはその時間も好きだよね?」

ディアナさん「そう! あの時間、空間も大好き!」

浩平さんとディアナさんにとっての食卓とは、「家族の愛情」を確認し、伝え合う場として機能しているのかもしれない。ふたりの娘さんたちはそこで彼らからの愛情を受け取り、また、日本とシンガポール、それらがミックスされた文化を学んでいく。それはかけがえない経験になるだろう。

そんな素敵な経験をしながら大人になっていく娘さんたちに、なにか望んでいることは?

ディアナさん「やさしくて、しっかりした大人になってもらいたい。そして、もしもこのまま日本に住み続けるとしても、いろんな国の人を助けられるような人になってほしいですね」

浩平さん「なにかを押し付けることはしたくないんですけど、こうして珍しい環境で育っているんだから、面白い仕事に就いてくれたらうれしいです。日本にいながらシンガポールの文化も吸収して、それを活かしていってくれたら。どんな小さなことでも構わないので、経験を糧にしてもらいたいです」

ディアナさん「それと、困ったときはいつでも、わたしたちの元に帰ってきてもらいたい。わたしの母がいつも言うんです。『なにかあったら、帰ってきていいからね』って。だから、無理はせず、頑張りすぎず生きていってもらえたら」

食卓というのは、それぞれの異文化を混じり合わせることができる場なのかもしれません。そうして出来上がるのは、その家庭独特の新しい文化です。苦労してきたことはあまり語らず、とても前向きで笑顔を絶やさないディアナさん。その姿からは、異文化に触れることの楽しさを教わるようでした。

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取材:松屋フーズ・五十嵐大 執筆:五十嵐大 写真:小池大介 編集:ツドイ

やったー!
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松屋は「みんなの食卓でありたい」を企業メッセージに掲げています。国籍、人種、性自認、趣味嗜好の多様性が表面化し、それぞれが尊重される現代の日本。この国における「みんな」とは何か。取材班が、各地の「食卓」にお邪魔し、人生を聴いて、2021年現在の「みんな」について考えていきます。