母子家庭の子たちを笑顔に、お腹いっぱいにしたい。「子ども食堂」を切り盛りする石黒友子さんが考える、食卓の役割
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母子家庭の子たちを笑顔に、お腹いっぱいにしたい。「子ども食堂」を切り盛りする石黒友子さんが考える、食卓の役割

さまざまな事情により、ご飯を充分に食べることができない子どもたちがいる。そんな子どもたちを少しでもサポートしたいという想いから、全国各地に生まれたのが「子ども食堂」と呼ばれるコミュニティだ。そこでは無料、あるいは低価格で食事が提供され、子どもたちが安心して過ごせる時間が流れている。
オフィス街として知られる東京・神保町にも、実は「子ども食堂」がある。それを運営する石黒友子さんは母子家庭で育ち、シングルマザーとして子育てした経験も持つ人物だ。
「子ども食堂」を通して、どんな未来を望んでいるのか。友子さんの胸中に迫った。

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神保町のラーメン屋さんにある、「子ども食堂」

神保町駅から徒歩2分。大通りに面した路地を入ると、濃厚な蟹の香りが漂ってくる。そこにあるのは「石黒商店」。蟹の出汁が効いた味噌ラーメンで有名なお店だ。数種類の蟹を使い、何十時間もかけて出汁を取っているため、スープを一口すすれば、豊かな蟹の風味に圧倒されてしまう。

神保町は「本の街」として有名で、かつ、オフィスビルも林立する。土地柄、ビジネスパーソンの来店が多く、お昼時にもなると客足が途絶えない。現在は渋谷にも二号店を出店している石黒商店は、いつも大忙しだ。

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そんな石黒商店には「人気ラーメン店」以外に、もうひとつの顔がある。それは「子ども食堂である」ということ。

この取り組みがスタートしたのは、2021年2月1日。子どもは100円でラーメンが食べられ、営業中であればいつでもOK。しかも、毎週金曜日には弁当の無料配布(予約制)も行なっているという。

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今回取材するのは、石黒友子さん。パートナーがこの石黒商店をオープンして以来、友子さんは主に接客を担当していたが、現在は他のスタッフとともに繁盛店である神保町店の店長を任されている。

お店を切り盛りしながら、「子ども食堂をやろう!」と決めたのは、友子さんだった。その理由は、自身の生い立ちに紐付いている。まかないを食べながら、教えてくれた。

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「私が中学を卒業する直前に、両親が離婚することになったんです。高校入学と同時に引っ越して、母と妹と3人での生活がスタートしました。すぐにアルバイトも始めて、自分のものは自分のお金で買う習慣が身につきましたね。母の仕事が忙しかったので、家事も妹と分担して」

けれど、「母子家庭であることを嫌だとは思わなかった」と、友子さんは朗らかに話す。むしろ、母子家庭と不幸を結びつけてしまう考え方には疑問を抱いているくらいだ。

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「もちろん、よその家の子みたいに自由に遊びたいと思うこともありましたけど、アルバイトや家事をしながらでも遊ぶ時間を捻出する工夫はしていましたし、そんな自分のことを不幸だとは思っていなくて。逆に、両親が喧嘩している姿を目にすることのほうがつらかった。だったら思い切って離れちゃって、各々が楽しくやってくれたほうが子どもとしては楽。母から離婚したいと相談されたときも、『私も働くから、離婚すれば?』って背中を押したくらいなんです」

当時のことを懐かしそうに話す友子さん。2歳下の妹と協力しあいながら過ごした青春時代は、友子さんの中で良い思い出として残っているのだ。

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シングルマザーとしての忙しい日々

その後、二十歳を超えた頃、一度目の結婚をした。しかし、その家庭生活は決して穏やかなものではなかったという。

「一度目のパートナーはちょっと乱暴な人だったんです。彼との間にはふたりの子どもが生まれたんですが、徐々に険悪な仲になってしまって。このままいくと、両親のように喧嘩ばかりする夫婦になってしまう。それは嫌だったので、早いうちに別れようと決心しました。それが24歳のときです」

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4歳と2歳の子どもを連れて家を出たものの、貯金は数百円程度。心細い中、実家を頼った。その日から、友子さんの「シングルマザーとしての日々」がスタートしたのだ。

「昼間の仕事が終わったら一度帰宅して、子どもたちを寝かしつける。その後、夜の仕事をこなして朝2時に帰ってくる。この繰り返しでした。でも、いつまでも実家には頼っていたくなかったですし、なるべく早く子どもたちと3人で暮らそうと思っていたので頑張れたんです。3人で暮らすようになってからは子どもとの時間を最優先に考えて、クロス屋さん(建築物の内装業)で働くようになりました。男性並みの収入を得るためには、男性がやるような仕事をするのが手っ取り早いと思ったんです。朝が早い分、夕方には帰ってきて、子どもの宿題を見てあげたり、一緒に遊んだりできるようになりました」

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そんな生活が8年ほど続き、現在のパートナーと出会うことに。けれど、「再婚するつもりはなかった」そうだ。

「シングルマザーの友人たちが次々に再婚していく中で、子どもたちからも『ママはどうして再婚しないの?』って訊かれていたんです。でも私としては、もういいかなって思っていて。なによりも子どものことが大切だったので、お付き合いする人ができても、そっちを優先できない。だから、再婚なんて考えられなかったんです。子どもの欲しがるものは絶対に買ってあげていたし、遊びにも連れて行ってあげて、父親がいないことで子どもに不憫な思いはさせていないつもりでした。新しいゲーム機が出る度に『え! いまのゲームってこんなに高いの!?』と驚きましたけど、それでも頑張って絶対に買ってあげていました(笑)」

それでも現在のパートナーと再婚することを決めたのは、彼が「子どもを最優先にしたい」という友子さんの考えに賛同してくれたからだった。

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「結婚する前から、子どもたちと遊んでくれていたんです。子どもたちもすぐに懐いて。ただ、それでも再婚を決めるまでに4年くらいはかかりました。彼にとっては、いきなり子どもがいる生活が始まるわけじゃないですか。だから、不安もあったんです。でも、徐々に慣れてくれて、この人なら大丈夫かもしれないな、と」

そうして再婚した友子さんは、新しいパートナーとの間にふたりの子どもをもうけた。いまは4人の子どもとパートナー、6人での生活を満喫している。

「再婚して今年で5年目を迎えました。でも、お店が忙しすぎて、結婚記念日のことをすっかり忘れていたんです。当日、半額になったひき肉でドライカレーを作っていたら、パパが仰々しくワインを並べ出して、『え? なんの日?』と(笑)。覚えてないのかよってツッコまれましたけど、家族みんなでお祝いできました」

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悩み、困っている人の声に耳を傾けたい

母子家庭で育ち、自身もシングルマザーとして奮闘してきた歴史が友子さんにはある。だからこそ友子さんは、いまを生きるシングルマザーとその子どもたちがどれくらい苦労しているのか、身にしみるように理解できるのだ。そして、それが「子ども食堂」の設立へとつながった。

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「来てくれた子どもは、どのメニューも100円で食べられるようにしています。最近だと8歳の子がおばあちゃんと一緒に来てくれるようになりました。上は小学校高学年くらい。子どもがそれ以上の年齢になると、親が『うちの子はもう子どもじゃない』と遠慮しちゃうんです。でも、高校生が利用してくれたって構いません。

それと毎週金曜日に無料配布しているお弁当は、本当は月1回の予定だったんです。うちの子たちが寝た後に一人で準備しているので、なかなか大変で……。でも、『お弁当は毎週やっているんですか?』という声が多くて、そこまで求めてくださるなら頑張るか、と」

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このエピソードからもわかる通り、友子さんは“困っている人の声”に耳を傾け、できる限り応えたいと考えている。Twitter上では誰からでもダイレクトメッセージを受け付けるように設定しており、シングルマザーからの相談を受けているそうだ。

「SNSでは私がシングルマザーだったこともすべてオープンにしています。それで安心してくださるのか、そういう人たちからたくさん連絡をもらうんです。そこで悩み事を聞き、お店で使っているお米を送ることもあります」

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こうした活動の元手になっているのは、お店で集まった募金だ。募金箱を設置し、呼びかけたところ、半年間で約9万円が集まった。友子さんの「子ども食堂」は彼女ひとりの力だけではなく、志に賛同したお客さんからの想いもあって運営できているのだろう。

わざわざ募金だけしに来てくださるお客さまもいらっしゃるんです。『もう歳だからラーメンは食べられないけど、子ども食堂にはなにか協力したいから』とか。その気持ちを絶対に無駄にしたくない。

募金で買ったお菓子も用意していて、来てくれた子にはお土産として渡しています。そうすると、みんな途端に子どもらしい顔になるんですよ」

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「そもそも、子ども食堂があると知っていても、いざ利用するとなると緊張すると思いませんか? うちは、大人のお客さんが多いし、キッズスペースがあるわけでもない。だから、緊張しながらでも来てくれた子にはお腹いっぱいになってほしいし、また来たいと思ってもらいたいんです」

最終的に友子さんが目指しているのは、“人と人とがつながる場所”だという。

「子ども食堂をやっていることで、お客さんとより深く交流できるようになったと思います。こないだも作りすぎたお弁当をサービスで出したら、『学校の給食みたいで楽しいね』って、みなさん楽しんでくれて。これからも石黒商店がそういう場として機能していったらいいなと思いますね」

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友子さんにとっての“ふたつの食卓”の意味

友子さんがここまで頑張れる理由。そこには「母子家庭を助けたい」という想いもあるが、同時に、友子さんを笑顔で迎えてくれる大切な家族がモチベーションにもなっている。

4人の子どもたちは、それぞれ16歳、14歳、4歳、2歳。思春期の子がいたりやんちゃ盛りの子がいたりと、想像するだけでも賑やかそうだ。

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「下の子たちはとても生意気な時期なんですが、上の子は対等に喧嘩していますね。本当に毎日喧嘩していて騒がしいくらい(笑)。かと思えば、すぐに仲直りして一緒にお風呂に入っていたりする。見ていて微笑ましいです。

そして、みんなとにかく食べることが好きで。人気のメニューは断然ハンバーグ。一度に3キロの肉を使って作るんですけど、事前に予告しておかないと『なんで言ってくれなかったの! おやつ食べちゃったじゃん!』って怒られるんです」

友子さんもパートナーもお店に立つため、家族全員が食卓に揃うチャンスは限られる。だからこそ、それを大切にしている。

家族全員が集まったからといっても、なにか特別なことをするわけではありません。みんなで映画を観たり、その日あったことを話したり、すごく他愛のない時間を過ごしているだけなんです」

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友子さんには“ふたつの食卓”がある。ひとつは家庭の、もうひとつは石黒商店でのものだ。いまの友子さんにとって、それぞれの食卓はどんな存在なのだろうか。

「家庭での食卓というのは、家族がひとつのチームになれる場所ですかね。同じご飯を食べることで、一体感が持てている気がします。そして石黒商店での食卓は、やはり“つながり”です。年齢も性別もバラバラな人たちがお客さまとして集まって、そこで縁ができていく。お客さま同士で仲良くなるのはもちろん、中には結婚までした人たちもいるんです。そういう“つながり”が持てる場所として、石黒商店の食卓はあるんだと思います」

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食卓を通して家族が“ひとつ”になっていくのと同じように、他者の間でもそれができる。「子ども食堂」での友子さんの経験をうかがい、あらためて人と人をつなげる食卓の役割について考えさせられました。
“孤食”が増えている昨今、私たち松屋フーズも食事の場を提供するだけではなく、人同士がつながることについてなにかアプローチできたらいいな、と思います。

取材:松屋フーズ・五十嵐 大 執筆:五十嵐 大 写真:小池大介 編集:ツドイ

ありがとうございます。
松屋は「みんなの食卓でありたい」を企業メッセージに掲げています。国籍、人種、性自認、趣味嗜好の多様性が表面化し、それぞれが尊重される現代の日本。この国における「みんな」とは何か。取材班が、各地の「食卓」にお邪魔し、人生を聴いて、2021年現在の「みんな」について考えていきます。