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料理は実験、アレンジするのが楽しい。パートナーの価値観をも変えた、野菜好きパティシエの食卓

忙しい日々のなかで「献立」を考えるのは、決して簡単なことではないはず。新しいレシピにチャレンジして失敗するくらいならば、作り慣れているもので済ませてしまおう。手間や苦労を考えると、どうしてもそうなりがちです。
でも、料理をもっと楽しむことができたら、テーブルの雰囲気はすこしずつ変化し、毎日の食卓が新鮮なものになるかもしれません。
今回お会いした大坪風花さんは、ダンデライオン・チョコレートのペストリーキッチンで働きながら、自身のお弁当屋「fucafe」も営む、いわば料理のスペシャリスト。そんな風花さんの食卓におじゃますると、料理することの意義や料理の“底なしの楽しさ”が伝わってきました。

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マンションの一室。大きな窓から光が差し込むキッチンには、いくつもの“作り置き”が並んでいた。色とりどりの野菜をふんだんに使ったという。「料理は目でも楽しむ」とはよく言うが、そこに並ぶカラフルな作り置きの数々を見ていると、自然とお腹が鳴ってしまう。

これらを作ったのは、野菜を愛するパティシエの大坪風花さん。取材があるこの日のために用意したわけではなく、普段からこうしてさまざまな料理を作ってはストックしているという。

風花さん「同じものを食べ続けるのは苦手なので、1、2日で消費できる分量の作り置きをストックしているんです」

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パートナーの渉さんが見守るなか、「もうすぐできるからね」と風花さんは微笑む。そうして食卓に並んだのは、まるでカフェで提供されるようなワンプレートランチだ。しかも、あまり見たことがないようなものばかり。

風花さん「今日のランチは、ケールとベビーリーフのサラダ、新ジャガとビーツのポテトサラダ、ほうれん草とセリを胡麻とナッツで和えたもの、シャドークイーンとさつまいもを焼いたもの、レンコンのバルサミコソース、ビーツとニンジンのラペ、イチゴと紫キャベツのマリネ、メインはガパオライスです。それにビーツとジャガイモ、新玉ねぎのポタージュを添えました」

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その品数の多さに、取材陣からも感嘆のため息がこぼれる。いつもこんなに作っているのだろうか?

風花さん「今日は少し多めですけど、基本的には品数が多いほうだと思います。特に土日になると冷蔵庫整理も兼ねて、いろいろ作っちゃうんです。それと、わたしは野菜が大好きで。スーパーで珍しい野菜を見かけると、つい買ってしまいます。これを使ってどんな料理を作ろうかなって考えるのが楽しいんですよ」

たしかに野菜のことを話す風花さんは、満面の笑みを浮かべている。その隣では渉さんが料理に手を付け、「今日も美味しいね」と笑う。なんだか、陽だまりのようなふたりだと思った。

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野菜好き、料理好きの遺伝子を受け継いだ

風花さんの野菜好きには、その生い立ちが大きく関係している。新潟に住む祖父母が農業を営んでいるのだ。

風花さん「家の隣に畑があって、いろんな野菜を作っていたんです。夏に遊びに行ったときは実っているトマトをもいで、そのままかじりつく。いま思えばとても贅沢なことですけど、子どもの頃はそれがふつうだったんですよ」

渉さん「風花さんのご両親は、時々新潟まで行って、東京ではあまり見かけない野菜を持ってきてくれるんです」

風花さん「そうそう。それもあって、我が家では珍しい野菜が食卓に並ぶことも多いんです。幼い頃からそうやって野菜を食べてきたので、お肉よりも野菜が大好きになりました」

しかも、料理好きの遺伝子も受け継いだ。

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風花さん「祖母はなんでも手作りする人なんです。ジャムやシロップを手作りして、みんなに配るような人でした。そして父も料理好きで。新潟の郷土料理が得意で、祖母の味を再現できるくらい上手なんです。そのうち、わたしもそのレシピを習いたいな、と思っているくらい」

野菜が好き。そして料理が好き。そう育った風花さんは、自然と料理の世界へ興味を持つようになったという。高校では調理師免許が取得できる「家政科」に進学し、卒業後に就職したのが、野菜を使ったケーキを提供するお店だった。

風花さん「見習いのパティシエとして入ったんですけど、新作のお菓子を考案させてもらったり、積極的にさまざまな経験を積ませてもらいました」

ところが運悪く、お店は閉店することに。その後はケーキ屋、スコーン屋、飴屋など、スイーツ系のお店を転々とした。

風花さん「その過程で渉さんと出会って、結婚することになったんです。それと同時期に、父の知人から『おにぎり屋さんの店長をやってみないか』と打診されて、チャレンジすることに。

基本的にはわたしひとりで運営していたのですごく忙しかったですね。急に100個の注文が入っちゃうこともあって、もうてんてこ舞いでした(笑)。でも、ひとりだからこそ、ゆる~くやらせてもらえましたし、効率よく料理をする力が身につきました」

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経営は順調だったものの、入居していたビルとの契約の関係で、そのおにぎり屋も畳むことになってしまった。その後ダンデライオン・チョコレートのペストリーキッチンではたらきはじめたけれど、やはりもっと料理に携わっていたいという気持ちを抑えられなかった風花さん。

近所のレストラン店主と仲が良かったこともあって、お店が開店する前のお昼の時間帯に、お菓子教室やランチの提供する「fucafe」をはじめたそう。コロナ禍の影響もあって、現在はお弁当の提供に形を変えて運営している。

ダンデライオン・チョコレートではスイーツを作る仕事をしながら、自らのお店も立ち上げた、そのバイタリティに頭が下がる。

「fucafe」ではおにぎりと野菜料理がメイン。その根底にあるのは、「みんなに美味しい野菜を味わってもらいたい」という想いだ。

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食に興味がないパートナーの価値観も変えた

さまざまなキャリアを積み、いまではやりたいことに邁進しているように見える風花さん。ずっとそれを支えているのは渉さんだ。

風花さん「わたし、物事をひとりで決められない性格なんです。なので、すべて渉さんに相談していますね」

渉さん「ぼくら、少し年の差があるんです。ぼくが8歳年上で。だからまだ若い風花さんが、なにかで悩んでいるときはそっと背中を押してあげたくて。否定は絶対にしません。やりたいことがあるなら、やってもらいたいんです」

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時折、顔を見合わせながら話すふたりは、とても仲睦まじい。交際期間を含めると、もう10年も一緒にいるそうだが、なんだか付き合いたてのカップルにも見える。常に互いのことを尊重し、愛情を向けている様子が伝わってくる。

風花さんにとっての渉さんは、いつだって味方をしてくれる存在。では渉さんにとっての風花さんとは?

渉さん「ぼくにいろんなことを教えてくれる人ですね。いまだに覚えているのが、初めてご飯を作ってくれたときのこと。パスタだったんですけど、出てきたのが桃を使った冷製パスタだったんです。ふつう、ミートソースとかの無難なメニューが出てくると思うじゃないですか。だから、『家でパスタに桃を入れるの!?』ってびっくりしてしまって(笑)。でも、もちろん美味しかった。風花さんと出会って、珍しい組み合わせの料理を知ったし、野菜の美味しさも理解しました

そもそも渉さんは、食に興味がなかったタイプ。同じものを延々と食べられるくらいだという。でも、風花さんがその価値観を大きく変えた。

渉さん「彩りや盛り付けにもこだわっていて、そんな風花さんの料理を食べると、『食べることってこんなに楽しいことだったんだ!』といつも驚かされます

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料理は実験、アレンジするのが面白い

さらに渉さんが驚いたのは、風花さんのレパートリーの多さ。もう少し厳密に言うと、風花さんは毎回アレンジを加えて、同じ料理は作らないようにしている。つまり、毎日の食卓が新鮮さで溢れているのだ。

渉さん「風花さんは、『これが作りたい』と考えるのではなく、『こんな野菜があったから、これを活かした料理はなんだろう』と考えるタイプなんです」

風花さん「そうだね、いつも野菜を見てから考えてるかもしれない。いろんな料理本からレシピを仕入れて、それを自分流にアレンジしていくのが楽しくて。だから味付けも毎回変わりますし、メニュー名を聞かれてもうまく答えられない(笑)。作った料理はちゃんと写真に収めておかないと、一体なにを作ったのか覚えきれないくらいなんです。今日作ったガパオライスも、本来であればバジルを入れるものですけど、ミントを加えてみました。きっと美味しいんじゃないかなって想像しながら」

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そう言って風花さんはいたずらっぽく笑う。風花さんにとっての料理とは、遊び心満載の実験のようなものなのだろう。

風花さん「わたしと渉さんが食べる分なら、多少失敗してもいいかなって(笑)。そうやっていろいろ試してみて本当に美味しかったものは、友人を招いたときに作ってあげるんです」

渉さん「こないだなんてポテトサラダにミントが入っていて驚いたんですけど、とても美味しかったんです。これならお店でも出せるし、友人にも食べさせたいねって話していたくらい」

日々の料理は、どうしてもルーティーンになりがちだ。今晩のメニューを考えるのが一苦労、という人も少なくないだろう。いくつかの定番料理でまわしていくほうが楽とも言える。

それでも風花さんが、毎日新しい料理を生み出し続けていけるのはなぜだろう。その原動力はなんなのだろうか。

風花さん「料理が好きというのはもちろんですけど、やっぱり『美味しいね!』って言ってもらえることがなによりもうれしいんです。渉さんもそうですし、友人のなかにも『風花のご飯を食べに行きたい』って言ってくれる人がいて。それが喜びなんだと思います」

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これからも風花さんは家庭で、そして「fucafe」で、人々を笑顔にする料理を作り続けていくのだ。……と思いきや、実はもうすぐ大きな転機を迎えるらしい。

渉さん「ぼくの仕事の都合で、上海に引っ越すことになっているんです」

風花さん「それに、いまお腹のなかに新しい生命がいて。だから、当面は上海でお母さん業をやることになるのかな、と思っています」

新天地での生活には不安もある。けれど、それ以上にワクワクもしている。

風花さん「子どもには早くから包丁を持たせたいんです。わたしがそうさせてもらったことで料理好きになったので、一緒にキッチンに立てたら楽しいだろうなって。そして、ご飯は必ず3人で食べたいですね」

渉さん「風花さんは結婚してからずっと、ぼくの帰宅時間にあわせてできたての料理を出してくれているんです。どんなに遅くなっても、温かい料理を一緒に食べる。だから子どもが生まれても、それは続けていきたいですね。3人でいろんなことを話しながら、楽しい食卓にしたいです」

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本当に楽しそうに笑いながら、キッチンに立つ風花さん。その姿はまるで遊んでいる子どものように無邪気です。
そんな風花さんから、とても大切なことを教わったような気がします。それは、「誰かを思って作るご飯の尊さ」。レシピ通りに作らなくても良い。たまには失敗したって構わない。それよりも、「この味付けをしたら喜んでくれるかな?」という気持ちが、なによりもご飯を美味しくするスパイスなのでしょう。

取材:松屋フーズ・五十嵐 大 執筆:五十嵐 大 写真:小池大介 編集:ツドイ


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松屋は「みんなの食卓でありたい」を企業メッセージに掲げています。国籍、人種、性自認、趣味嗜好の多様性が表面化し、それぞれが尊重される現代の日本。この国における「みんな」とは何か。取材班が、各地の「食卓」にお邪魔し、人生を聴いて、2021年現在の「みんな」について考えていきます。